第7章 36℃
「あ、あの!」
こちらを真っ直ぐに見下ろしながら言う彼女に、赤葦は自分に話し掛けているのかとようやく気付いて口を開いた。
「あ、はい」
「連絡先…っ、聞いてもいい!?」
話したこともない女子からこうして連絡先を聞かれるのは、なんだか久しぶりな気がする。ことごとく連絡を返せずにいたからか最近はあまり聞かれかったのだけれど。
「赤葦の連絡先、教えて」
まっすぐにそう言われて、周りからヒューとガヤがあがる。
切れ長の瞳に、血色の良い厚めの唇が特徴的な女の子だ。テニス部のエースというだけあって、気が強そうだと思った。巨乳というのも頷けるし、確かに男子受けしそうなタイプだと思う。が。赤葦にとっては、女性は二種類しかいない。”なまえ"と”それ以外”。それだけなのだ。無論、この目の前にいる女子も、”それ以外”なことは確かであって。
「ごめん。用事なら、口頭で伝えてもらってもいいかな」
今までであれば、断るのも面倒なので、連絡先を教えるだけ教えて返事は返さないというスタイルを貫いてきた。けれど。今日からは、それも一新だ。女子の連絡先は、マネージャー以外全て昨日のうちに削除したし、これからは一切誰にも教えないつもりだ。
「赤葦、おまえ言い方!!」
「連絡先くらいいいだろ別に教えたって!!」
友人達からブーイングが起こる。当の鳥崎は、むすっとした顔で口を開いた。
「別にいいじゃん、連絡先くらい!教えてよ」
「ごめん。もう女子には、教えないことにしたんだ」
「なんで?」
心底不思議そうな顔で問う鳥崎と、友人達。
そんな人達に向かって、赤葦は、無表情のまま口を開いた。