第7章 36℃
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「おはようございます」
いつものように部室を開ければ、扉を開けたのと同時に、見慣れた顔と聞き慣れた元気な声が飛び込んできた。
「よーう赤葦ィ!!」
いつもなら寝起きの頭に地味に響く木兎の声だけれど、今日は全然悪い気はしない。
「おはようございます、木兎さん。今日も早いですね」
「あれ、なんか今日赤葦テンション高い!?」
顔には全く出していないつもりだけれど、妙なところで鋭い木兎に、赤葦は思わず目を見開いた。
「え」
「なぁなぁ木葉!赤葦なんか今日テンション高くね!?」
「はぁ?どこが?いつもとなんも変わんねぇだろ」
「そお?」
―――木兎さんは、普段はあんな感じなのに、たまにものすごく鋭い。
木兎と木葉の会話を横目に、赤葦は内心どきどきしながら先輩方に挨拶をして、さっさと着替えを済ませる。油断すればすぐに緩んでしまいそうな表情筋を引き締めるのに、今日は必死だ。
だって。
―――昨日。長かった片想いが、なんと、晴れて実を結んだのだから。
みょうじが抱き着いてくれたときなんて。
すごい、今日は俺の命日かもしれないなあとまで思った。
幸せすぎて、もしかして夢なんじゃないか、なんて、帰ってからもずーっとボーっとしてて、全然寝つけなかった。寝て起きたら夢でした、なんて展開になったらと思うと、怖くて仕方なくて。夢なら醒めてほしくない、なんて考えていれば、結局、一睡もできなかった。
けれど、不思議とアドレナリンは全開だ。いつもよりいいプレーができるような気さえする。やっぱり彼女の力は偉大だなぁ、なんて思いながら、ピコン、と小さな音を立てたスマホを見やる。