第7章 36℃
歯磨きをしながら出てきた黒尾に、なまえは満面の笑みで真っ黒のお弁当箱を差し出した。
『クロ!今日はクロの大好きなサンマづくし弁当だよ!』
「おお、マジか、いつもサンキュ・・・ってくさ!!なんだこれくっさ!!」
蓋を閉めているのにも関わらず、そのお弁当箱からはなんともいえない魚の匂いが漂っている。研磨はなまえの後ろで、既に鼻をつまんでいた。
「おま、もしかしてサンマの塩焼きいれたのか!?魚は弁当いれたら臭くなるから竜田揚げ以外しないって言ってたじゃねぇか!!」
『だって、クロ、サンマの塩焼きが一番好きでしょ?だから敷き詰めてみた!!』
「いや。そりゃ一番好きだよ。好きだけど、詰め込めばいいってもんじゃねぇだろ!?煮付けの汁出てるし…こんな臭いの教室で食えるか!!公害だわ!!」
『えへへ~』
黒尾の文句など聞こえていないとでもいうようになまえはへにゃりと楽しそうに笑っていて、なんだか背後にはお花が咲いているようにすら見える。
『ねー研磨、私昨日赤葦と』
「うん大丈夫それ昨日百万回聞いた」
ぴしゃりとなまえの言葉を遮る研磨に、なまえはえへへ〜と嬉しそうに笑った。なんだか、溶けたチョコレートのような顔だ、と研磨は思った。
「うざい……」
「うん、わかるよー研磨。でもさ、よかったじゃねぇの。俺達も報われたな」
「……まぁね」
昨日まで、地獄の底に突き落とされたような顔をしていたのが嘘みたいに幸せそうな幼馴染に、研磨と黒尾も思わずつられて嬉しそうに微笑んだ。
「…あ、クロ、今日は俺に近寄らないでね。くさい」
「俺が臭いみたいに言うなよ!?」
愉快な声を響かせながら、三人は、いつものように。
昔より大きくなった肩を並べて、学校へと向かったのだった。