第7章 36℃
コンロを開けば、自分で自分を褒めたくなるくらい秋刀魚に良い焼き色がついていた。普段は面倒くさくてコンロを使っての焼き魚なんて絶対しないけれど、今日は特別だ。
だって、クロのおかげで、赤葦と付き合えたようなものなのだから。応援してくれていた研磨にも、次の休みにアップルパイをたくさん作るんだ!
そんな風に意気込みながら、塩焼きにしたサンマと、竜田揚げにしたサンマと、サンマの煮付けをお弁当箱にぎっしり詰めていく。ドコサヘキサエン酸?だかなんだか忘れたけどクロの大好きなよくわからない栄養素たっぷりお魚弁当の完成だ。
時計を見やれば、まだ家を出る時間まで大分余裕がある。
お弁当を作り終えてから、部屋に戻れば。スマホの画面が、丁度光った。
一件のラインが来ていて、送り主は――赤葦だ。
【おはよう。昨日はありがとう。今日も頑張ろう】
絵文字も顔文字もない実に簡素な文章だけれど、それがたまらなく嬉しかった。
昨日、家まで送ってもらった後、赤葦から初めて個別のラインが来た。それも素っ気ないものだったけど、これからは、グループラインじゃなくて、こうやってやりとりできるんだな、なんて、すごく幸せで。夜な夜な研磨とクロに惚気にいった。まぁ、小二時間ほどで、研磨に無理矢理追い出されたけれど。
今日も朝から赤葦からラインをもらえるなんて、なんて幸せな日なんだろう。にやにやしながら返事を打って、鼻歌を歌いながら朝練の準備をする。母にも「今日は随分機嫌がいいのね」なんて笑われた。
いってきますと元気よく家を出て、いつものように隣の家に突入する。
『研磨ぁー!!』
ガラガラッと大きな音を立てて研磨の部屋の扉を開ければ、ゲームをやっていたらしい研磨は顕著に顔を歪めながらこちらを見つめている。
「……朝からうるさい」
『おはよー!朝練行こー!』
「やだ…いつもより20分も早いじゃん…」
『いいから!!たまには早く行こうよ!!』
なまえはぐいぐいと研磨の腕を引っ張って部屋から引き摺り出して、今度はその隣の黒尾の家に突入する。
『クロー!おはよー!朝練行こー!』
「おー、早ぇな」