第7章 36℃
それ以来、クロのお弁当を作るのは、私の日課だ。おかげで、人並みに料理ができるようになった。きっかけをくれた、クロのおかげだ。
それに、クロと喧嘩したり、むかついたりした時は、お弁当で仕返しをする。ある時は白いご飯の上に切った海苔で”バカ”と書いてみたり、冷凍食品の唐揚げを解凍せずにそのままいれてみたり。白いご飯にチョコレートを振りかけた事もあった。口論でクロには敵わないので、意外とストレス発散のはけ口になってたりもする。それに、クロは毎日欠かさず”ありがとう”と言ってくれるから。砂糖と塩を間違えた卵焼きでも、真っ黒焦げになったコロッケでも。クロはいつも、"美味しかった"と笑顔で言ってくれるんだ。だから、お弁当を作るのは、結構楽しかったりする。研磨の分もよく作るのだけれど、一度研磨がお弁当を忘れた時に、研磨の教室までお弁当を届けに行ったら、注目を浴びたとめちゃくちゃキレられた。理不尽である。研磨に怒られる事は慣れっこなので特に気にもせず、今も研磨のおかあさんが朝が早い時などは私が作っているけれど。絶対に学校では渡さないように(特に山本の前では)と、きつく言われている。
私は、小6の大会を最後に、バレーをやめてしまったけれど。
あの時、もう二度とバレーなんてやらないって思った。でも、それは心からの気持ちじゃなかったんだと思う。だから、中学に入って、クロがしつこくマネージャーに誘ってくれた事に、実は感謝してたりもする。だって、クロが教えてくれたバレーボールを。三人で、一緒にやってきた事を。嫌いになんて、なりたくなかったから。
それに、もしあの時、クロがしつこく誘ってくれてなかったら。
音駒のメンバーにも、そして、赤葦にも。出会えていなかったのだから。
そんな昔のことを思い出していれば、サンマの焼ける良い匂いがしてきた。