第7章 36℃
そして、土曜日。
わくわく顔のクロに連れてこられたのは、バレーボールチームが練習している体育館だった。
自分達と同い年くらいの子供達が、みんな楽しそうにバレーボールと触れ合っていて。そんな光景に、クロにつられて思わず目が輝いた。
そんな私達三人に気付いたコーチらしきお兄さんが、声を掛けてくれて。私達も一緒に練習に混ざることになって。
ひたすらレシーブの練習をするクロに、私は聞いた。
”『あっちの方がかっこいいけど、あれはやらないの?』”
”「あれはスパイクっていうの!かっこいいだろ!でも、背が大きくないと打てないから…」”
クロがそう言った時、後ろから声がした。
――”「じゃあネットを下げればいい。最初こそ、まずは”できるヨロコビ”じゃないかい。”好きこそ物の上手なれ”~ってな」
その人の言葉に影響を受けたのか。その後、クロは一生懸命ジャンプして、一生懸命スパイクを打った。
ほんの小さな出来事だ。
でも、クロは、この日を一生忘れないんじゃないかって。なんとなく、思った。研磨も、同じだったと思う。
後で知った、その猫背の大人。
音駒高校バレーボール部猫又先生。
――あの日から、クロは急速にウザ・・・いや、バレー好きになったんだ。
光が山ファイターズという、自転車で30分ほどの場所にあるチームに入った。クロの言葉に乗せられて、私も一緒に。
新しいチームに入ってからのクロは、学校での友達も増えたりして、バレー以外の事もよく喋るようになった。
でも、近所にバレーボーラーはいないので、やっぱり変わらず研磨の家で三人集まっては、夜な夜なバレーボールのビデオを見たりして。
私もクロと同じチームに入って少し経った頃、練習の帰り道に、クロが言った。
”「研磨はバレーやらないのかな。絶対あいつ、なまえと同じでセッターに向いてるのに。三人でバレーやりたいなぁ」”って。
だから、そんなクロに。とっておきの言葉を、教えてあげたんだ。
”『"参謀"って感じでカッコイイ!って、言ってみ』”
研磨の心をくすぐりそうな、そんな、とっておきのパワーワードだった。