第7章 36℃
クロには、おかあさんがいない。
―――小さい時。
クロは、私と研磨の家の並びに越してきた。
クロの家はおとうさんとおじいちゃんとおばあちゃんとクロの四人で、クロが家に一人になる時は、決まって三軒並んでいる家の真ん中にある研磨の家に来た。
研磨の父親と私の父親は同級生で仲が良く、研磨とはしょっちゅう一緒にゲームをしていたから、必然的にそこには私もいて。
今じゃ想像もつかないけれど、当時は研磨よりもクロの方が人見知りで、引っ込み思案だった。今はそんな事言っても、誰も信じないだろうけど。
三人でカチャカチャと音を立てながらバーテァファイター4をやる日々。クロは全然楽しそうじゃなくて、ゲームが割とへたくそな私でも、クロに負けたことはなかった。
そんなクロを見兼ねた研磨が、ある日言った。「他になんかやりたいやつないの?」と。それは、多分、というか絶対、”違うゲームで”という意味だったのだけれど。
クロはその時初めて嬉しそうに笑いながら、バレーボールを持ってきた。
その時の研磨の顔は、今でもよく覚えてる。
どうにかしてよ、と無言の訴えを感じたんだけれど。なんか楽しそうだったから、そのまま嫌がる研磨の腕を引いて、クロについていった。
その後三人で近くの河原に行って、クロは私たち二人に一生懸命バレーを教えてくれた。その時、クロはこんなにでっかい声が出せるんだ、と初めて知った。
バレーなんてやったこともないへたくそな私と研磨にバレーを教えるクロは、すごく楽しそうに笑っていて。なんだか、つられて笑顔になった。
そんなこんなでバレーを教えてもらっていれば、腕に謎のブツブツが現れて。
”『うわあ!?何このブツブツ!?』”
”「きもちわるい!!」”
腕にできた青紫のブツブツに驚く私と研磨に、「ああ、ただの内出血だよ。すぐ消えるし続けてれば出なくなるよ」と答えたクロが、かっこよくて。
ナイシュッケツという恐ろしめなワードに「ただの」とつけたクロに、私と研磨は尊敬の眼差しを向けた。