第6章 恋の方程式
「―――ずっと、好きだった。初めて会った時から、みょうじのこと」
―――ずっと言いたかった。ずっと言えなかった。たった二文字の言葉なのに。どれだけ時間が掛かったか。
『……わたしも…私も、赤葦が、ずっと――』
瞬間。
ふわり、と柔軟剤のいい香りがなまえの鼻を掠めた。大好きな人の、大好きな匂い。抱き締められているのだと気付くのに、時間は掛からなかった。
なまえはしばらく驚いたままぽかんとしていれば、赤葦がはっと気づいたように慌てて身体を離した。
「!ご、ごめん」
『え、いや……嬉しかった、よ』
なんとも言えない雰囲気が流れて、赤葦が言いづらそうに口を開いた。
「……ごめん。俺のせいだね」
『え?なにが?』
「俺があの時勘違いさせるような事言ったから。もっと素直に言ってれば、みょうじを傷つけなくて済んだのに」
『私も早とちってあんなこと言ったから…お互い様だよ』
「本当に、ごめん。もう、絶対、泣かせたりしないから」
『……うん』
さっきまで抱き締められていた身体が、未だ熱い。
「俺と、付き合ってくれますか」
『……はい』
こくりと頷いたなまえは、そのまま赤葦の胸に飛び込んできた。
大好きな人の唐突な行動に一瞬驚いてから、ああ、もう、ためらうことはないんだな、と実感してから、それを噛み締めるように、両手を、彼女の小さな背中にそっと回して、ぎゅっと抱きしめた。