第6章 恋の方程式
『……好きな人がいるか勇気出して聞いたの。そしたら、片思いしてるって言われた。…で、赤葦は何回振られたの?』
「………俺も」
『え?』
「失恋した、って、目の前で、言われて……それで……」
――言葉が、続かない。
考えろ。いや、そんなわけは。いや、ちゃんとよく考えろ。今までの彼女の言葉を、自分の行動を。黒尾さんや、弧爪に言われた事を。
「………」
『………』
なんとも言えない沈黙が、二人の間に流れた。
駅からなまえの家に帰る、あまり人気のない道の、ど真ん中で。二人は向かい合ったまま、しばらく立ち止まっていた。
その沈黙を先に破ったのは、赤葦だった。
「あのさ」
『……うん』
「それ、いつの話?」
『……えっと…二週間前頃の、話』
「……奇遇だね。俺も二週間前の、夏合宿の時だった。最終日の、前日の夜」
『!!』
驚いたように目を見開いたなまえは、なんともいえない表情で、視線をそらした。
『き、奇遇だね……私も同じ日だ』
またしても変な沈黙が流れて、今度沈黙を破ったのは。
「『それって―――』」
二人の声と、視線が、重なった。
瞬間、赤葦が慌てたように続けた。
「ごめん。俺からちゃんと言わせて」
『う、うん……』
三度目の、沈黙が流れて。
こんなにも夕陽がまぶしいのに、火照った顔はきっと、バレバレだ。