第6章 恋の方程式
「………」
―――三年も前から好きなのか。
そんなに前から彼女に想われているのに、そいつは一体、何をくすぶっているんだ。もう、ショックを通り越して、そいつが心底憎たらしくて、思わず拳に力が入る。
『だから、諦めない――』
「諦めなよ」
『……え』
「……あ」
―――まずい。思わず本音が出た。
表情に出さないよう必死に平静を装って、赤葦は続けた。
「いや……みょうじみたいな人がこんなに一途に想ってくれてるのに、それに応えないなんて、とてもじゃないけどいい男には思えないし」
『そんなことないもん。世界で一番かっこいいんだから!』
真面目な顔でそんな事を言うなまえに苛立って、赤葦はらしくもなくムキになる。
「…へえ。そう。三年前から自分を振り続けてる男が、世界で一番かっこいいんだ」
赤葦の皮肉めいた言葉に、なまえの眉根がぴくりと動いた。鋭い目つきで赤葦を見上げてから、嫌味っぽく口を開く。
『…赤葦こそ、振り向いてくれない女のどこがいいわけ?』
「俺にとっては世界一素敵な女性なので」
二人の間に、ばちばちと火花が散る。
『へえ。あっそう』
「で、みょうじはその変人に何回振られたの?」
『は、何回も振られてないし!しかも変人とか!さっきから何、その人のこと悪者にしないでよ!』
「別に悪者になんてしてない。失恋したって言ってたじゃん。振られたって事だろ」
『そうだけど。何回も振られてなんかないもん!好きって事すらまだ言ってないし!』
「は……?好きって言ってないのに、どうやって振られたの」
心底不思議そうにそう問えば、彼女は罰が悪くなったのか、ぷいと顔をそらした。