第6章 恋の方程式
「……みょうじの好きな人って、どんな人なの?」
正直、傷つくだけだからあまり聞きたくはないけれど。気にならないと言ったら嘘になる。
木葉さんを信じて、好きな人の話題を振ってみれば。彼女はじとりとした視線で、ふてくされたように口を尖らせた。
『……無表情で天然ですっとぼけてて変人でなんか全てがわかりづらい人』
―――そんな人の何がいいんだろう。
そう思ったけれど、口に出すのはさすがに失礼なので心の中で留めておく。
木葉さんを密かに恨みながらコメントに困っていれば、彼女が続けた。
『でも、むかつくくらい優しくて、かっこよくて……会うたびに好きだなぁって、実感させてくる…ずるいひと』
どこか寂しげに微笑みながらそういう彼女の横顔に、ひどく胸が痛んだ。
聞かなきゃよかった。そんなことを思うのは、これで二度目だ。
「……そうなんだ」
我ながら、どうしようもない返事の仕方だったと思う。でも、今は、それが精一杯だった。
『……私、やっぱり諦めないことにした』
追い打ちをかけるようななまえの言葉に、赤葦は息が詰まりそうになるのを堪えて、口を開く。
「……どうして?」
『さっき赤葦も言ってたじゃん、好きになるってことは、簡単に諦められるようなことじゃないと思うって。私もそう思う。簡単に諦められるくらいなら、とっくに諦めてるし』
「………」
―――どうやら俺は、墓穴を掘ったようだ。
赤葦は悔やんでも悔やみきれない後悔に襲われながらも、反論しようと続ける。
「……。そうだけど。でもみょうじなら、モテるんだから他にいくらでもいるじゃん。諦めて新しい恋愛するのもいいと思うけど」
『その人じゃなきゃ駄目なの!たぶん、三年前、はじめて見た時から、ずっと…好きだから』