第6章 恋の方程式
赤葦が協力してくれたおかげで、食べたかったパンケーキを三種類も食べる事ができた。しかも、なまえがお手洗いに行っている間に、なんと赤葦は会計を済ませてくれていて。
何処までもスマートすぎる対応に、本当に高校二年生なのか疑いたくなるレベルだ。
『赤葦、本っ当にありがとう!!でも、少しくらい私に払わせて』
「いいよ、それじゃお礼の意味ないから」
『でも、三つも食べたんだよ!?』
「俺も食べたし。本当に、気にしないでいいから」
そう念を押されて、仕方なしにお財布を仕舞う。俺も食べたなんて言っているけれど、ろくに食べていないし、赤葦が結構大食いなのは知っている。絶対あんなんじゃ足りないし、甘いものなんかじゃ腹は満たせないと前にクロが言っていた。
『じゃあ赤葦、なんか食べたいものない!?今度は私が奢る!』
「いや、いいよ。そういうのは、男の役目でしょ」
『やだ!じゃなきゃ気が済まない!菜の花の辛し和え食べれるとこ行こう!』
「え、覚えててくれたんだ」
驚いたように言う赤葦に、なまえは当然だとでも言いたげにドヤ顔で答えた。
『当たり前じゃん!あと、おにぎりも好きだよね!』
「ああ…あれは、」
言いかけて、赤葦は思わず口を噤む。
――いつかの合同練習の自主練の時。
腹が減ったとごねはじめる木兎さんと黒尾さんを見兼ねたみょうじが、夕食の残りのお米でおにぎりを握ってきてくれた事があった。
その時、確か、おにぎりを6つほど食べた。誰よりも食べた。そんなにおにぎりを食べるのは初めてだった。彼女は”おにぎり好きなんだね”なんて笑っていたけれど、きみが作ってくれたものだから、なんて、言えるわけもなくて。