第6章 恋の方程式
どうしてこうも彼はことごとく優しいのだろう。あんな暑い中、一時間以上並んで、しかも男子が苦手そうな甘いものだらけの店に。文句の一つや二つでも言いたくなるはずなのに、文句どころか、感謝されてしまった。ぽかんとしていれば、わざわざこちらに見やすいように開いてくれたメニューを覗きながら、赤葦は続けた。
「結構メニューの種類あるんだね。どれにする?」
『あ、えっと…やっぱりプレーンは食べてみたいなぁ。でもチョコレートとストロベリーもきになる…』
「じゃ、全部頼もう」
『え、全部!?』
「うん。食べられなかったら、俺が食べるし」
『赤葦甘いものたべれるの!?』
「うん。―――すみません」
驚いていれば、赤葦は静かに店員を呼んで、なまえが食べたいと言ったメニューを全てスマートに注文している。
前に好きな食べ物の話になった時、赤葦は菜の花のからし和えと答えていた。そんな渋いメニューを一番好きな食べ物だと答える人が、パンケーキなんて好きなわけがないのに。
そんなことを考えていれば、隣の人が注文したパンケーキが運ばれてくるのが見えた。パンケーキの上に大量の生クリームが載っていて、随分とヘビーな感じだ。そこで今日、なまえはクレープとタピオカとソフトクリームを食べてきたことに気づいて、自分が怖くなった。
「具合悪い?大丈夫?」
『え!?いや全然!めっちゃ元気!ただ今日のカロリー摂取量すごいなって』
「はは、そんなこと。大丈夫、みょうじは太っても可愛いから」
『……え』
思わずぽかんと口を開いていれば、赤葦は少し慌てたようにメニューに視線を落とした。
「…黒尾さんとか木兎さん達も言ってたし」
『あ…ありがとう…、赤葦は、細い子の方がいいなぁーとか、思わないの?』
「別に思わないかな。好きになった人なら、太ってようが痩せてようが、どっちでも可愛いと思うし。無理して好きなものを我慢するのを見てる方が、俺は嫌だな」
考えるようにそう言って、聞かなきゃよかったと後悔した。
きっと赤葦は今、好きな女の子のことを思い浮かべているんだろうなぁなんて思ってしまって、ちょっと落ち込む。そのとき、お待たせしましたと声が聞こえて、テーブルの上に生クリーム盛り盛りのパンケーキが三つも運ばれてきた。