第6章 恋の方程式
『え、赤葦!?まさか並ぶ気!?』
「そうだけど」
『嫌じゃないの!?』
「全く。みょうじが嫌なら、俺も諦めるけど」
『いや…私は嫌じゃないけど…でも』
「じゃあ並ぼう」
嫌な顔ひとつ見せず、さらりとそう言った赤葦に腕を引かれたまま、列の最後尾に並んだ。軽く一時間は並びそうだ。ディズニーランドのアトラクションかと突っ込みたくなったけれど、赤葦はそういうのにも文句を言わずに並んでくれそうだなと思った。昔、研磨とクロとディズニーランドに行った時なんて、朝から行ったのに、二人とも並ぶのが嫌すぎて、すんなり入れるくそつまらないアトラクション一つしか乗らずに帰ってきたことがあった。それくらい、男にとって列に並ぶという行為は拷問らしい。まぁ、あの二人が特にそうなのかもしれないけれど。だからこそ、赤葦の優しさが余計に輝いて見えた。
『赤葦って、本当優しいよね』
「そうかな。変なだけじゃない、先輩達にも言われるよ」
『うん、たしかに、まぁまぁ変だよね』
「自分的には普通のど真ん中にいるつもりなんだけどね」
『あはは、変じゃなかったら、あんな自主練できないよ!』
「それを言うなら、みょうじもね」
『間違いない!』
他愛もない話で盛り上がっていれば、むせ返るような暑さも、全然進んでくれない列も、何も気にならなくなっていた。日常の会話やら、部活での出来事やらを主になまえが話して、赤葦が相槌を打ちながら聞いてくれる。そんな時間が、どうしようもなく楽しくて。気づけば2人は、店の入り口の手前まで来ていた。
「次の方ー!こちらへどうぞ!」
案内の人が声を掛けてくれて、ようやく自分達がこんなに進んでいた事に気付いた。わくわくした気待ちを抑えながら店内へ入れば、飛び込んできたのはピンク色だ。ラブリーな色で装飾された店内は、ちらほらカップルの姿も見えるけれど、基本的には女の子だらけ。
こんな場所に連れて来て心底申し訳なさを感じていれば、赤葦は微塵も気にしていないとでもいうようにファンシーな椅子に淡々と座ってさっとメニューを手渡してくれた。
『ありがとう…ごめんね、なんか店内が想像以上にラブリーな感じだった』
「うん、いいと思う。みょうじがこういうところに行きたいって言ってくれてなかったら、きっと一生来れなかったから。ありがとう」