第6章 恋の方程式
駅からの道を、二人肩を並べて歩く。
なまえの歩幅に合わせてくれているのであろうゆっくり歩いている隣の赤葦をちらりと見上げれば、端正な横顔にどきっと心臓が鳴った。
しょっちゅう合同練習で顔を合わせているのに、何故か妙に緊張してしまう。失恋した後だからだろうか、それとも見慣れない制服姿だからだろうか、尚更格好良く見える。いや、いつものジャージ姿ももちろん格好いいんだけれど。なんて考えていれば、こちらの視線に気づいた赤葦と目が合った。
「あ、ごめん、疲れた?少し休む?」
『え!いや、ううん!全然!』
「結構駅から歩くみたいだから。疲れたら言ってね」
『あ、ありがとう!』
なんて紳士的な神対応なんだろう、なんて心の中でまた更に彼に惚れ直して、少し悲しくなる。こんな素敵な人に想われている女の子が、心底羨ましい。悶々とそんなことを思っていれば、赤葦が口を開いた。
「制服って、なんか新鮮だね」
『私も思った!合同練習の時はいつも基本ジャージだもんね』
「そうだね。みょうじはやっぱりセーラー服、似合うね」
さらり、と爽やかな笑顔でそう言った赤葦に、また心臓が鳴った。沸々と顔が熱くなっていく気がして、やんわりと顔をそらした。
『…あ、ありがとう……でも本当は、ブレザーが良かったんだ。梟谷の制服、可愛いよね』
「そうなんだ。セーラーも似合うけど、ウチの制服も似合いそうだね」
『えっ、』
なんだか今日は、赤葦がすごく褒めてくれる。
いつもナチュラルに褒めてくれる人だけれど。こう立て続けに褒めてもらえるなんて、しかも、二人で出掛けられるなんて。今日は、なんていい日なんだろう。
きっと、失恋して落ち込んでいた自分を見兼ねたクロが、気を利かせて赤葦を誘ってくれたのだ。今まで何度も、赤葦のことを遊びに誘ってみたら?だとか、俺が誘ってやろうかー?だとか、そんな提案はしてくれていたのだけれど。無理!恥ずかしい!何着ていけばいいの!バレーの邪魔したくない!なんて理由をつけてことごとく跳ね除けて、結局合同練習以外で会ったことなんて一度もなかった。お互い強豪校なだけに、休みだってあってないようなものだし。きっと事前に言われていたら、また理由をつけて跳ね除けていたんだろう。