第6章 恋の方程式
「………」
『………』
二人の間に沈黙が流れる。
なまえは、赤葦の顔を直視できずにいた。この前失恋したばかりなのに、という気持ちと、どうして今ここに好きな人が、と嬉しい気持ちとが入り混じって、絶対顔が赤い気がする。それを紛らわすように遠くなっていく黒尾の背中を黙って見つめていれば、上から声が飛んできた。
「……じゃあ、行こうか?」
『……っえ!?』
赤葦の言葉に盛大に驚けば。そんななまえの様子に赤葦も驚いたのか、眉がぴくりと動いた。
「…もしかして、黒尾さんから聞いてない?」
『きっ、聞いてないって!?何を!?』
「……やっぱり」
赤葦は困ったように言った。
――なんとなく、予想はついていた。
合宿を終えて、なまえのことで盛大に落ち込んでいた赤葦の元に、黒尾から個別のラインが来たのは三日ほど前の事だった。
”【お疲れさん!土曜日なんだけどさー、午後から空いてない?その日午後がオフでさー。なまえが行きたいっつってたパンケーキ屋に付き合ってやって欲しいんだけど。なまえにもちゃんと言ってあるからさー!】”
どん底だったテンションは最高値まで跳ね上がり、二つ返事でOKした。土曜日は偶々朝から自主練の日だったので、前日にしぬほど練習をして、土曜日は絶対に午後で上がりますと事前に申告し早々に抜け出してきたのだ(とは言っても結局木兎さんに付き合うことになり少し長引いたせいで遅くなった)。
『あ、あの……聞いてないって、何を?』
「ああ、いや。なんでもないよ。ごめん、俺とでも平気?」
『え?』
「パンケーキ屋さんに行くの。俺と一緒でも、大丈夫かって事」
『は……。……はい』
なんだか間の抜けた返事だったけれど、頷いてくれた事に代わりはないので赤葦はほっと胸を撫で下ろした。
「じゃあ、行こうか」