第6章 恋の方程式
『だって嬉しい!嬉しすぎる!!いつも行きたいって言っても、並ぶからやだってクロも研磨も付き合ってくれなかったのに!どういう風の吹き回し!?』
「…まーそんなことはいいから、早く行こうぜ」
頬を掻きながらそう言った黒尾は、改札を抜けたところで、ぴたりと立ち止まった。
突然立ち止まった黒尾の背中に、なまえの頭がどんとぶつかる。
『ちょ、急に止まんないでよ!何!』
「あー、ちょい待ち。今地図調べてっから」
『あ、地図なら私も調べ』
「いーのいーの、お前は黙って鏡でも見てオシャレしとけ」
『……そんなに今日の私ブサイク?やっぱり太ったかな…』
いつものマイナス思考に陥って独り言をぶつぶつ言い始めた幼馴染の横で、黒尾はくるりと背を向けて駅の方を見やる。そして、待っていた人物の姿が視界に入って、にやり、と笑った。
「おー!来たか!」
突然大きな声を出した黒尾に、なまえの肩がびくりと揺れる。
「――すんません、遅くなりました」
その、聞き覚えのある声に。
『……え?』
おそるおそる振り返れば。
そこにいたのは――。
『あ、赤葦!?!?』
よっぽど慌てて走ってきたのか、練習中並みに息を切らしている制服姿の赤葦に、なまえはこれでもかというくらい目を見開いている。なぜ、どうして、彼が、ここに。ぽかんとだらしなく開いている口を慌てて閉じて、隣の黒尾を見上げれば。彼は、ニヤニヤと笑っていた。
『………』
「んじゃ、そういうことで」
にたり顔で爽やかにそう言った黒尾に、なまえが慌てて口を挟む。
『…は、ちょ、待って何どこ行くの!?』
「いや、俺用事あるから。赤葦ー、こいつのこと頼むな!」
「はい。わかりました」
『えっ、』
「んじゃねー」
掴んだ制服の裾も虚しく引き剥がされ、黒尾はひらひらと手を振りながら、颯爽と駅の改札を抜けていってしまった。