第6章 恋の方程式
「んじゃ、俺達はこの辺で」
ゲームセンターを出たところで、黒尾がなまえの肩を抱き寄せて言った。
「はぁ!?黒尾はどーでもいいけど、なまえちゃんも帰っちゃうのかよ!?つーかテメェなまえちゃんから離れろ!」
「いやー、悪いねー。今日は親同士で集まりがあんのよ」
「マジっすか!?せっかくの姫とのデートが…!!」
「山本、これはデートとは言わないぞ」
ふてくされる夜久と山本を海がなんとか宥めるいつものパターンでその場を収めている間に、黒尾にぐいぐいと腕を引かれたまま、なまえは早足でその大きな背中についていく。
今日は親同士の集まりなんてないし、付き合ってほしい場所ってどこだろう、スポーツショップかな、でもそれならみんながいてもいいはずなのに、なんてただ黙々と考えていれば、最寄りの駅から家に帰る方面とは逆の電車に乗せられた。
『ねぇクロ、何処行くの?』
「ついてからのお楽しみー」
『………』
そのにたり顔に、何を企んでいるのだろうとじとりとした視線を投げかけてみせる。が、当の黒尾は何やら楽しそうにスマホを弄っている。何度か覗き込もうと試みたけれど、簡単にひょいと隠されて見えず終いだ。
三駅目で降りたところで、黒尾が言った。
「まぁまぁ、そんな顔すんなって。あ、お前クレープ食ったせいでグロス取れてんぞ。ほら、今のうちにちゃんとぬっとけよ」
『クロと出かけるのに何が悲しくてグロスなんて塗り直すのさ。散々いつもすっぴんなのに』
「いーからぬっとけよ、ちったぁマシになんだから!」
『マシってなんだし!!』
ぶーたれるなまえの鞄に手を突っ込んで、黒尾はポーチからグロスを取り出しぐいっと差し出した。渋々手鏡を見ながら塗り直せば、黒尾の細長い手が伸びてきて、なまえの前髪をそっと整えるように撫でた。
『なに』
「可愛くしてやってんの」
『だからなんで』
「今からお前が行きたがってたとこ行くから」
『え!!』
黒尾の言葉に、なまえの瞳がきらきらと輝く。
そして降りた駅の名前を見て、ピンとくる。前に雑誌で読んでから、ずっと行きたいと言っていたパンケーキ屋さんがある駅の名前だ、と。
『……クロ!!大好き!!』
「おまえさー、本っ当調子いいよなぁ」