第4章 百折不撓 (錆兎)
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霧が濃く他と比べて遥かに空気が薄い山の中で剣術を教わる日々が続いていた。木刀を握り締め目の前にいる宍色の髪の少年錆兎を睨み付ける。常に狐の面で素顔を覆い隠している為に表情が読み取れ無いがこんな弱い私を見捨てず真剣に指導してくれる面倒見の良い人だ。
「さぁ、掛かってこい」
『ーーーっ!』
木刀を振り下ろすと一振りの重みから体が震え腕が痺れるような痛みに襲われる。一旦後ろに距離を取るが錆兎は急かさず距離を詰め頭蓋を叩き割りに掛かっているのではと思う程の速度で振り下ろされる。木刀の重みと速度は尋常ではない。これが木刀では無く白銀の刃だったら容易く人体を貫き人体を鮮血で赤く染め上げるだろう。痛みと恐怖から表情を歪ませると一瞬の隙をついて腰を蹴り飛ばされ地面に叩き付けられる。
『かは・・・っ!』
上手く受け身も取れず呼吸が乱れ地面に這いつくばると錆兎は溜め息を吐く。
「鈍い弱い未熟・・・」
その言葉に胸を痛める歯軋りしどうしようも無い感情が込み上げてくる。何故こんなにも弱いのだろうか。意識が混濁しそうになったが鬼に殺された家族の姿を思い出すだけで目元が熱くなり吐き気に襲われる。微塵の容赦も慈悲も無い残酷な鬼を殺せる強さを手に入れなくてはならないのだから。
『まだやれます・・・っ!』
木刀を握り締め何とか立ち上がると錆兎は面の下でほぉ…と感心したような声を漏らす。以前に彼に言われた言葉を思い出す。
「何もせずに只喚く無能よりは増しだ」
悲憤慷慨し震えて縮こまり鬼に恐怖しながら生きる人生など真っ平御免だ。足掻いて足掻いて強さを手に入れ一匹でも多くあの世に葬ってやる。その思いだけが私を再び立ち上がらせる。木刀を真正面に向けきつく握り締めると錆兎は面の下で小さく微笑んだ。