第3章 魅入る (童磨)
鬼化してからなのか愚かな行為に勤しむ人間を喰うことで解放し自らの一部として永遠の存在にしてやり救済するという善行を行動原理としており男よりも女を喰うほうが強くなれるからという理由で女を好んで喰っているようだ。嫌悪感から吐き気が込み上げてくる。
「ねぇ、君の名前は?」
お前のような殺人鬼に名乗る名など無い。と言い放つと童磨は目を潤ませる。
「冷たいなぁ。何か辛い事があったんだね・・・可哀想に聞いてあげよう話してごらん」
その瞬間に駆け出した。地面を這うように接近し鬼を見据え斬り伏せるが斬った箇所は拍動に合わせて血が噴き出し次の瞬間一瞬で傷口が塞がってしまった。ゾクリと悪寒が背筋をなぞる。この鬼に比べたら今まで倒してきた鬼は雑魚だ。
「いいねぇ、面白い子だなぁ。血鬼術蔓蓮華」
蓮葉氷から氷の蔓を伸ばす技のようだ。無数の蔓がこちらを絡め取ろうと襲い掛かる。刃を素早く振るいながら距離を取るが大量の氷を受け数ヶ所斬られてしまった。
『ーーーかはっ!?』
呼吸したと同時に肺が凍り付き激しい痛みに襲われる。血を吐き出しその場に膝を付くと地面に血が滴り落ちた。
「ここまで戦える子なんて久々だよぉ。安心して骨まで残さず食べてあげるから」
『ーーーっ!』
「最後に名前を聞かせてくれるかなぁ?」
圧倒的な強さに魅入られ平伏した。これが今の私の限界のようだ。死を覚悟し屈辱から唇を噛み締め血の味に眉を歪める。
『・・・』
「ちゃんかぁ!可愛い名前だねぇ!大丈夫小雪ちゃんは俺と共に永遠の時を生きていくからね」
愉快に笑う童磨はそのまま私の体を優しく抱き締めた。体が動かない。どうやらこのまま吸収されていくようだ。
「永遠を共に生きよう」
耳元で囁かれ私はそのまま瞼を閉じた。吸収されれば骨すら残らない。何と滑稽で惨めな人生だったのだろうか。私は永遠に覚めぬ眠りに付いた。