第3章 魅入る (童磨)
❅꙳ః❅꙳ః❅꙳ః❅꙳ః❅꙳ః❅꙳ః❅꙳
血の匂いが鼻を擘く。鬼だろうと駆け足で向かうと降り積もった雪に血が付着しており悲痛な声と共に赤い鮮血が宙を舞った。千切れた下半身が真横に落ちて来る。様々な箇所の骨が折れ皮膚を突き破り腹部を斬り裂かれ腸がはみ出ていた。肉を裂く音と悲鳴が響き渡る。視線を正面に向けると頭から血を被っているような長髪の男性が立っていた。牙が生えている口を開き人間の皮膚を喰い血を滴らせている。良く見ると辺りに転がっている死体は女性ばかりだった。
「わぁ!女の子だね!」
鬼の姿に息を飲む。虹色がかった瞳に白橡色の髪といった特異な姿だった。両目には上弦と数字が刻まれている。まさか噂に聞く十二鬼月なのだろうか。
「やあやあ初めまして、俺の名前は童磨。いい夜だねぇ」
常に笑顔を浮かべ穏やかで優しい男性に見えるが肩に担いだ女の死体の脚を齧りつつ生首を小脇に抱えているという猟奇的な姿に吐き気が込み上げる。この人物が異常で危険であると強烈に印象付けた。身震いしながら鞘から日輪刀を引き抜くと鬼は鋭い対の扇を広げた。
「わあ!綺麗な刀だねぇ!」
目を輝かせこちらを見る。飄々と態度で何処か軽薄とも取れる態度と振る舞いに苛立ちが込み上げた。刀を握る手に力を込める。
「俺は万世極楽教の教祖なんだ。信者の皆と幸せになるのが俺の務め。君も残さず綺麗に喰べるよ」
『ーーーっ!』
日輪刀の刃を正面に向ける。童磨という鬼の武器となる鋭い対の扇は黄金の地に蓮の文様が描かれていた。彼の名前である童磨の童は子供のことで磨にはすり減ったという意味もある。純粋無垢であるが故に残酷でもある子供のまま成長し鬼となっても感情というものが未熟ですり減っており無いに等しいという事なのだろう。飄々としているが隙が無い。
『皆と幸せ?大勢の人達を殺しておいて何を抜け抜けと』
心底腹が立つ。眉を上げて睨み付ける舌打ちすると童磨は楽しそうに笑った。
「だから救ってあげただろ?その子達はもう苦しくないし辛くもないし怯える事もない。誰もが皆死ぬのを怖がるからだから俺が喰べてあげる。俺と共に生きていくんだ永遠の時を俺は信者達の想いを血を肉をしっかりと受け止めて救済し高みへと導いている」