第6章 犬猿の仲 (嘴平伊之助)
鬼の頚を斬り落とし滅殺する。燃えるような怒りと憎悪が私を突き動かした。
鎹鴉から次の指令を受け、数日掛けてその地へ駆け付けた時には陽が沈んでいた。時既に遅く村の住人達は鬼に襲われており辺りは血の海だ。遺体は損傷が激しく肉片が地面に飛び散り腹部を斬り裂かれ腸がはみ出ている者や引き千切られた四肢が落ちている。夥しい血の量と鬼の流す血が混じり合い噎せ返るような臭いを発していた。生存者は居ないかと辺りを見回すと年端も行かぬ少年が幼い少女を必死で庇っているのを見つけた。鬼という化け物に対する恐怖と憎悪から涙を流している。
「ーーーっ!」
私は日輪刀を鞘から引き抜き駆け出した。背後に迫ると鬼はぐるりと頭を回して此方を振り向く。
「ぐひひひっ!女がいるぞォ!」
下卑た笑い声が響き渡る。鬼は裂けた口で死体の脚を齧り血が滴り落ち地面を赤く染めていた。鋭い牙と爪が闇夜に煌めく。鬼は直ぐ様鋭い爪を振り翳して来た。素早く避け日輪刀に渾身の力を込めて斬撃を放ち逞しい腕を肩口から切断すると腕は宙を舞い血を撒き散らしながら地面に叩きつけられた。
「ぎゃあッ!」
悲痛な声と共に赤い鮮血が宙を舞うが気にせず直ぐ様頚を斬りに掛かると近くの茂みが動き中から何か大きなものが飛び出してきた。
「うおおおおお!!」
「きゃっ!?」
「猪突猛進!猪突猛進!!」
獣かと思ったが違う。猪の皮を被った人間だった。藍鼠色の二本の日輪刀を持っている。刃は歯零れさせたのかまるで鋸のようだ。
「ハハハハッ!屍を晒して俺の踏み台となれ!!参ノ牙喰い裂き」
交差させた刀で鬼の頚の両側を挟み外側に向かい獣が噛み付くように斬り落とした。
「アハハハハ!!」
猪の皮を被った人間はその場で嘲笑する。鬼の身体は崩れ落ち着物だけを残して死んでいった。私はその場に膝から崩れ落ち握っていた刀を揺らす。
「貴方は・・・一体」
「あ゛あ?何してんだお前、まさか鬼殺隊か?」
「ーーーっ!」
座り込んでいる私を見た猪は鼻で笑う。恥ずかしさから立ち上がると目眩に襲われ倒れないように足に力を込めた。