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ふたりだけのせかい

第1章 其の壱








「…私も、貴方という鬼がよくわかりません。」




なんだか無惨が幼子のように思えてきて。
首元へと顔を埋めたままである無惨の髪の毛をくしゃりと撫でるように優しく掴んだ。

この男が、幼子だなんて そんな訳はないのだが。
この男は何千人という人間を殺し、そして何千人という人間から恨まれ憎まれている、極悪非道極まりない鬼なのだから。



でも、ずっと無惨を見ていれば、その根の部分は幼子のままで止まってしまっているのではないかと思う時がある。





「こうして、貴方の気に食わぬ事を言う私を貴方は殺さない。…他の人ならそうはいかないでしょう?」

「…」

「だからといって、私と永遠の時を生きようとも思っていない。その証拠に貴方は私を鬼にしない。」

「…お前を鬼にはしたくない」

「え?」




聞き間違いかと思う程に小さく呟かれたその言葉。
すぐに聞き返したけれど、それ以上何も返ってくる事はなく、暫くの沈黙が続く。


そこにどんな意味が込められているのだろう。




「…下らん話をしている時間が勿体無い。もう時期日が暮れる。支度をしろ」

「どこへ行くのです?」

「暇なのだろう」



首元から顔を上げて、徐に懐から取り出したハンカチで噛み付いた傷口から流れる血を拭き取りながらそう告げられる。


こうして訳もなく無惨は私をよく連れ出す。




私と彼の関係に名を付けるとすれば、何と言うのだろう。
そんな答えの出ない事が、ふと頭をよぎった。








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