第3章 其の参
「…お前がお袋を大切に思う気持ちは、お前のお袋も同じだろォ」
「だけど、私は…」
「大切に思ってる奴が間違った道を進んでいたとして、そいつを恨む事はしねェ。…ただ、嫌われようが憎まれようが、どうにかしてやれなかった己を恨むだけだァ」
己を、恨む…
そっと心の中で実弥の言葉を繰り返す。
私を恨んでいるものだとばかり考えていたから、その言葉があまりにも衝撃で。
私のせいで母が自分自身を恨んでいる。
それは、私が恨まれる事よりももっと残酷な事の様な気がして。
「…今のは俺がお前のお袋だったら、って話だァ。俺はそれを理解していても、復讐を辞める気は微塵もねェがなァ」
「…どうして?自分のせいで、大切な人が自らを恨んでいるかもしれないんでしょう?」
自分は母が鬼として死んでいったあの日から、自分の意思というものはあってないようなもので。
ゆらゆらと揺れ動き続けてきた。
覚悟を決めたんだと、そう自分自身に言い聞かせていただけで、実際にはそんなものなんて全くなかったんだ。
それなのに、実弥には迷いがない。
目を見るだけで、その強い意思と覚悟を感じられる。
「どうして、か。…どうしてだろうなァ。全部受け入れて、全部背負って生きていける程出来た人間じゃねェんだろうなァ。復讐だけを考える"鬼"になった方が楽だろォ」
"鬼"という言葉に、思わずぴくりと肩が震えた。
自分の行いを反省し、それを受け入れ、背負い、大切な人の居ない世界でたった一人生きていく事はそう容易い事ではない。
自分の事を棚に上げ 全てを他人のせいにして、逃げる方が遥かに楽なのだ。
病を患った母を鬼にしたのは、私の"甘え"だ。私の"逃げ"だ。
そして、あの鬼狩りを復讐の為に殺そうとしている事だって。
気付かぬうちに、私は色んなことから逃げ回りながら生きていたんだ。