第1章 其の壱
正月を過ぎてしまえば、神社はとても暇だった。
本当に何もする事がない。
私という存在を鬼達は皆知っているらしく、人間だからといって鬼に手を出される事はない。
そんな事をすれば無惨の逆鱗に触れてしまうから。
しかし、鬼狩り達に必ずしも私の存在が知れ渡らないという保証はないが為に ひとりでの外出などは禁じられていた。
鬼でないから勿論無惨の呪いも無い。
監視を置くことも拒否したから、私が何処かへ行っても、連れ去られたとしても、無惨は把握できないのだ。
自ら逃げる事がないのは分かっていても、何かあった時直ぐに把握できないのが嫌なのだろう。
行きたいところがあれば そんな言いつけなんて無視して出掛けるが、行きたいところなんてない。
それに無惨はよく私を連れ回す。
だから全く気にならなかった。
「…何を難しい顔をしている。」
巫女装束を見に纏い、皺になる事など気にもせず だらりと自室の畳の上で寝転がり目を瞑っていた。
すると 聴き慣れた声がして、ゆっくりと瞼を開けば、無惨の紅梅色の瞳がすぐそこに。
私の額や頬に 少しウェーブのかかった無惨の黒髪がかかっていてなんともこそばゆい。
物音ひとつしなかったから、全く気が付かなかった。
「…いいえ、なんにも。暇を持て余していただけです。」
それを気に留める事なく再び瞼を閉じる。
「相も変わらず可愛げの無い女だ。」
「そんなこと、今に始まった事ではないでしょう。」
するりと無惨の冷たい手が私の頬へと触れる。
鬼であっても血は通っているはずなのに、それを全く感じさせないくらいに無惨の体はどこもかしこも氷のように冷たい。