第3章 其の参
「…泣いているの?」
「…」
「…変な事言ってごめんなさい。だけど、そう見えたの」
何を考えているのかわからない実弥と視線が交わる。
その瞳から、流れていない涙が見える気がして。
こんな事を言うのはおこがましいけど、私と少し重なって見えて。
この人は一体何を抱え生きているんだろう。
想像もつかない。
会うのだってたったの二度目なのだから、踏み入るべきじゃない。
そんな深いところへ踏み入るには、私はこの人の事を知らなすぎる。
わかっているけど、この人の事を知りたい。
そう思う気持ちも又確かだった。
「…泣いてねェ。泣いてたのはお前だろうがァ」
「…」
「ほら。いいからさっさと食って寝ろォ」
少しの間を開けてから、誤魔化すように視線を外す実弥。
私の口が開かれずに宙を彷徨っていた木製のスプーンをことりとお盆の上に置き、膝を立てゆっくりと立ち上がろうとする実弥。
(あ、行ってしまう…)
もう気がつけば夜も深く、遠くから梟の鳴き声が聞こえてくる。
ひとりになるのが…否、今この人と離れるのが、嫌だと思った。
何も知らないけど。
だけど、今離れればこの人がまた一人で苦しむ様な気がして。
私自身もだけど、この人を一人にさせたくないと、そう思った。
そう思うよりも先に気が付けば、私の右手は実弥の左手を掴んでいて。
熱のせいだろうか、掴んだその手はひんやりと感じて、それがひどく心地良かった。
「っ…行か、ないで」
「…」
「此処にいて」
掠れた声が静かな部屋に響く。
実弥の表情はこちらからは見えなくて。
離れていってしまいそうな気がして、掴んだ手の力を強めた。