第3章 其の参
ただの八つ当たりだと、
責任転換だと。
そう言われてしまえばそうなのかもしれない。
鬼の少女は人間を守り、
人間である私は人間を殺そうとしている。
一体どちらが鬼で、どちらが人間なのだろうか。
ーートン、トン
ふと、少し離れたところからこちらへと向かってくる足音が聞こえてきて ぱちりと瞼を開ける。
音のする方へと視線をやれば、同時にスッと襖が開いた。
姿を現したのは、もちろんこの屋敷の主人である実弥で。
その手に持っているお盆の上には、何やらほかほかと湯気が立っているが、何が乗っているのかここからは見えない。
「腹減ってるかァ」
「え…?」
「…減ってなくても食え。しっかり食って寝ねェと治るもんも治らねぇぞォ」
ぶっきらぼうに呟かれたその言葉の意味がわからなくて、小首を傾げる。
そんな私を横目にすぐそばまで来たかと思えば、すとんと腰を下ろした。
お盆の上に置かれていたのは、生成色した陶器の器で。
その中には、ほんのり黄色に色付いた卵粥が入っていて 真ん中には青ネギが散らされている。
お腹が空いた感覚はなかったのに、美味しそうなそれを目にして、美味しそうな匂いを嗅げば、自然と何か言葉を発する前に "ぐぅ…"と腹の虫の鳴く音が部屋に響き渡った。
「…」
そんな音を聞いて、何を言うでもなく目を丸くさせこちらに視線をやる実弥。
思いがけない腹の音に かぁっと顔に熱が集中するのがわかり、思わず視線を逸らす。
「あ、ありがとう…」
「…ふ。飯が食える元気があるなら大丈夫だなァ」
ほんの一瞬だけ、実弥の表情が綻んだのを見逃さなかった。
一度顔の表情が柔らかくなったのを見たが、こうして微笑む実弥を見るのは初めての事で。
どきりと心臓が大きく脈打つ。
あまりの綺麗な笑顔に実弥から目が離せなくなってしまう。