第3章 其の参
冷静になって、思い出した事がある。
無惨が以前話していた。
鬼になったにも関わらず人を喰らわず、無惨の呪いから外れている鬼。
その鬼は十代半ばくらいの少女で、花札の様な耳飾りをつけ 額に痣がある兄と共に鬼殺隊に身を置いているのだと。
煉獄杏寿郎の目の前に蹲っていたあの市松文様の、"竈門少年"と呼ばれていた少年。
そして、タンポポ頭の少年に慌てて木箱の様なものに押し入れられていた少女。
…間違いなく、あのふたりだ。
よくよく思い出してみれば、あの少女は口枷をしていたし、瞳孔は猫の様に縦長で、爪は鋭く尖っていた。
市松文様の少年も、花札の様な耳飾りをしていたし、額に痣があった。
タンポポ頭の少年が木箱に押し入れていたのも、陽の光から守る為だろう。
"汽車の中であの少女が、血を流しながら人間を守るのを見た"
"命をかけて鬼と戦い 人を守る者は 誰が何と言おうと鬼殺隊の一員だ"
煉獄杏寿郎の言葉を思い出す。
…そうか。
あの鬼の少女は、人を傷付け 喰らう事なく、身を挺して人を守っているのか。
その事実がある限り、"もしも" 母も鬼の少女の様な特殊な鬼だったら?そんな考えが捨てられない。
だって母は人を喰らっていない。
ただの一度も。
あの鬼の少女だけが特殊なのだという確証はどこにもないだろう。
もし人を喰らわずにいられたら?
人を傷付けずにいられたら?
母は首を斬られる事はなかったのだろうか。
こんなのただの苦し紛れの正当化だって、頭のどこかではわかっている。
だけど、この思いを捨て切れないのもまた事実で。
この思いがある限り、あの鬼狩りの男への復讐心も消える事はないのだ。