第3章 其の参
「…まだ顔色悪りィなァ。横になってろォ」
確かにまだ熱はある様で。
鈍い頭痛が脈打ち、身体の節々も痛んでいた。
それに、足の裏や膝の傷もズキズキと痛む。
そんな私を見越してか横になる様促され、そのまま実弥に肩を支えられながらそっと横たわる。
本当にこの人は、見た目とは違ってこんなにも優しい。
おはぎに対する態度を見ていて既にわかっていた事だったが、改めてそう感じた。
それに…
吊り目の三白眼や、沢山の傷のせいでつい見落としてしまいそうになるけれど、こんなにも優しく温かい目をしている。
「…そういえば。」
水を張った桶を持ち、立ち上がり襖の方へと向かったかと思えば、ふと足を止めてこちらを振り返る。
そんな実弥に思わず小首を傾げてしまう。
「おはぎ…の奴には餌、やってきたから安心しろォ」
「え、」
"おはぎ"と呼ぶ事にはまだ少し抵抗がある様で、ぎこちなくその名を紡ぐ。
だけど餌って…一体いつ?
「お前と会う前神社に行ってきた。お前は見当たらねェし、おはぎの様子も変で 何か引っかかってたが…まさかあんなとこで会うなんてなァ」
「そう、だったの…よかった…」
私もこんな状態で、今すぐに帰ると余計に迷惑をかけてしまいそうだったから。
おはぎに餌をあげてくれたと聞いて、心底ほっとした。
実弥はそれだけ言い残すと、襖を開け 何処かへ行ってしまった。
ふと冷静になり辺りを見渡せば、とても上質な部屋で。
先程開いた隙に見えた庭もとても広く立派なものだった。
恐らくこのお屋敷はとても広いんじゃないかと思う。
だけど、家族はいないと前に言っていたし、一人でここに住んでいるのだろうか。
あれ程衰弱しきっていた心だったが、実弥のお陰で少し気が紛れた様な気がする。
私に聞きたい事は沢山あるだろうに、詮索してくる事は無い。
本当に、不思議な男だと思う。
一体何者なのだろう、あの男は…
ズキズキと痛む頭を悩ませながら、再びそっと瞼を閉じた。