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ふたりだけのせかい

第3章 其の参








「…、美琴…!!」




私の名を呼ぶ声がする。
目の前に光が差し込む。
その光を掴みたくて、その声に導かれる様に必死に手を伸ばした。




「…」




意識が段々とはっきりしてきて、ゆっくりと瞼を開く。
その瞳からは、一筋の涙が流れ 額からは夥しい量の脂汗が滲んでいた。


随分と悪い夢を見ていた気がする。
…あれは、ただの夢だったんだろうか。
母が私に伝えたくて 夢に出てきたんじゃないだろうか。





ぼやぼやと霞んでいた視界がようやくはっきりと目の前を映し出す。
そこには眉を潜め 心配そうにこちらを見つめている実弥の姿があった。





「…此処は…」

「やっと目ェ覚ましたかァ。ぶっ倒れたかと思えばすげェ熱でよォ…神社までも距離があったから俺んちに連れてきた」

「熱…」




そう言われてみれば、額の上にひんやりと冷たい手拭いが乗っていて凄く気持ちが良い。
足の傷には丁寧にガーゼが貼られていて。
汚れていた着物ももう見に纏っていなく、襦袢 と腰巻のみの姿に 上から実弥の羽織っていた"殺"と書かれた羽織を掛けられている様だった。

これを全部実弥がしてくれたというのか。
そんな器用な事ができる様には見えないのに。




(襦袢と腰巻…だけ、)




未だぼうっとする中、ふとそう心の中で呟けば、暫くの間を開けてから かばりと勢い良く起き上がる。




「あ、あの…この格好って」

「あァ。汚れてたし暑そうだったから脱がせた後身体拭かせてもらった。…見てねェから安心しろォ」

「そ、そういう問題ではなくて…その…、何から何まですみません…」




ぽりぽりと頬を掻きながら視線を逸らし、バツの悪そうな表情を浮かべている実弥。

気になる事も、聞きたい事も、色々とありすぎるけど。
でもここまでしてもらっておいて、何かを言えた立場ではない。

急に倒れて、家にまで上がらせてもらって、挙げ句の果て熱まで出して看病までしてもらって。
本当、情けない。












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