第3章 其の参
「実弥くんこそ…どうしてここに?」
「どうしてって…ここは俺んちの近くだからなァ」
「そう、だったの…」
だったら、此処から神社までは近いんだろうか。
実弥くんの家は知らないけど、よく神社にきていたからそう思った。
これほど長い時間神社を留守にした事はなくて。
巫女の仕事はどうだっていい。
だけど、おはぎがお腹を空かせて待っている。
こんな状態でも、それだけはずっと頭にあったのだ。
だけど、一睡もせずに夜通しあの戦いを見届け、その後ここまでひたすらに歩いてきた私の体力はもうほとんど残っていなかった。
気力だって、もうとっくに尽きている。
今こうして立っているのが奇跡の様な状態だった。
こんな泥塗れの汚い私を支えてくれている実弥に申し訳ないという気持ちはあるが、実弥の顔を見て安心したのか力が抜けてしまい もう指一本ぴくりとも動かす事が出来なくなってしまっていたのだ。
「…悪りィが辛抱してくれェ…」
ぽつりとその言葉が呟かれると同時にふわりと浮遊感を感じたかと思えば、気がついた時には実弥に横向きで抱き抱えられていた。
自分で歩けると、そう言いたいのは山々だったが 頭がふわふわとしていて意識が朦朧としてくる。
がっしりとした筋肉質の腕に抱き抱えられ、胸がじんわりと暖かくなるような そんな感覚がして。
段々と重くなっていく瞼をそっと閉じ そのまま意識を手離した。
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其処は、黒く塗り潰された様に真っ暗で、何も見えない。
声を出したいのに、声も出ない。
体は鉛の様に重くて、動かす事が出来ない。
ここは、一体何処なんだろう。
"…の、いで…"
どこからか、微かに声がする。
誰かいるのだろうか。
"美琴のせいで…"
私の、せい…?
"私は鬼になんてなりたくなかった…それなのに…お前のせいで…、お前のせいで私はなりたくもない鬼にされ、骨も何も残らず死に 地獄へ落ちたのだ。お前のせいで…お前のせいで…"
"お前が病に罹れば…お前が鬼になれ
よかった…"
"お前なんて、産まなければよかった…"