第3章 其の参
"お母さんは美琴を信じてるから"
"君たちを信じる"
"信じると言われたなら、それに応える事以外考えんじゃねぇ!!"
そんな言葉達が、ぐるぐると頭の中を駆け巡る。
自分の都合がいい様に母の最期の言葉も記憶から消して、本人はなりたくもないであろう鬼にさせ、その鬼となった母を殺めた鬼狩りを恨み、その復讐の為に鬼の始祖である鬼舞辻無惨の手を取った私を。
自分の人生を恨み続ける私を。
母は今、どう思うのだろう。
己の事ばかりを棚に上げ、己の罪は無きものにし、復讐にしがみつきながら生きている私は、何とも自己中心的で、哀れでみっともない事と思っているのだろうか。
だけど、それでも…
煉獄杏寿郎の最期を見届け、母の最期の言葉を思い出しても尚、鬼狩りへの遺恨が残る私は、やはり 母や煉獄杏寿郎の様な人間ではないのだろう。
私の様なものを、"人間の形をした鬼"と呼ぶのではないだろうか。
自分のその心の闇の底知れなさが悍ましいとさえ感じた。
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どれほど歩いたのだろうか。
右足の鼻緒は途中で切れてしまい裸足で歩いていたせいで足の裏は土で黒く汚れ、そこらじゅう傷塗れになっていた。
何度も転んで着物も着崩れ、所々が破れてしまっている。
でも、そんな事なんて気にもならなかった。
あれほど激しく痛んでいた頭痛は嘘の様に引き、本能がもうこれ以上此処へ居てはいけないと言っている気がして、無我夢中で足を進めて此処まで来た。
この方向が神社の方へ繋がっているのかすらもわからない。
陽は雲に隠れてしまい、今にも雨が降りそうな空模様で。
梅雨が近付く今 じめじめとした暑さで汗が滲む。
その汗のせいで 肌に着物が纏わりついてなんとも気持ちが悪い。
ぽたりと額から汗が流れ落ち、地面に滲みを作っていた。