第3章 其の参
その言葉にはっと息を飲み込む。
と同時に、ずきりと激しい頭痛が襲ってくる。
「っ…!!」
ぎゅっと強く目を瞑り 思わずその場へしゃがみ込み、両手で頭を抱える。
刃物で切り裂かれるかの様な、頭が割れてしまうんじゃないかと思う様な、鋭く激しい痛み。
その瞬間、自分の中の奥底の方から何か声が聞こえた様な そんな気がした。
"お母さんは、美琴を信じてるから…"
其処へいる筈のない、亡き母の声。
私が聞き間違える筈がない、その声。
まるで目の前に、すぐそこに、居るかの様な そんな感覚に陥る。
"美琴、お母さんはねぇ…貴方を授かれた事、貴方のお母さんになれた事、貴方がお母さんって呼んでくれる事、貴方が元気で此処にいてくれる事、全部が物凄い奇跡なんだって思うの。もうね、それだけでお母さんは一生分の幸せを神様から貰ったのよ"
だけど、こんな言葉聞いた覚えなんてない。
"病を患って 後僅かの命だとしても、もう何も思い残す事はないのよ。人は皆 いつかは死んでしまうものだから。これだけ幸せな人生を送れて、本当にお母さんは幸せ者よ。…これから先、貴方が元気で 幸せで 笑っていてほしい、それだけがお母さんの願いなのよ"
ずきんずきんと頭が痛む。
私は夢を見ているんだろうか。
"だからね、美琴…どうか悲しまないで。どうか自分の人生を恨まないで。お母さんはいつだって貴方のそばにいて、いつも貴方を見守っているから。安心して幸せになれる道を選んで。…お母さんは、美琴を信じてるから。貴方なら大丈夫だって"
あぁ。そうだ。
もう話せなくなる前、最後に母が遺してくれた言葉だった。
この後すぐに意識がなくなって、話す事もできなくなって。
そして、私は母を鬼にしたんだ。
そうか。…そうだったんだ。
私は都合の悪い事は全て記憶から消していたんだ。
母も生きていたかった筈だって、そう、信じたくて。