第3章 其の参
どくんどくんと心臓が煩い。
耳鳴りもしてくる。
自分が恨んでいる鬼狩りにも、家族や大切な人がいて。
そして鬼となった者にも、かつて家族や大切な人が居たのだろう。
それを奪うのは?奪ったのは?
鬼舞辻無惨なのか。
…いいや。違う。
もっと根本的な事を突き詰めてしまえば、全て"人間"なのだ。
それが他者であろうと、己であろうと。
人間が人間を傷付け
己の弱さから己を傷付け、又他者を傷付け
人間が人間を、己が己を
"鬼"にさせるのだ。
「竈門少年、俺は君の妹を信じる。
鬼殺隊の一員として認める。
汽車の中であの少女が、血を流しながら人間を守るのを見た。
命をかけて鬼と戦い 人を守る者は
誰が何と言おうと鬼殺隊の一員だ。
…胸を張って生きろ。
己の弱さや不甲斐なさにどれだけ打ちのめされようと、心を燃やせ。
歯を食いしばって前を向け。
君が足を止めて蹲っても、時間の流れは止まってくれない。
共に寄り添って悲しんではくれない」
一語一句、聞き逃さないように耳を澄ませる。
あぁ、しまったと、そう思った。
今まで見ないでおこうと逃れていたものを、突き付けられた様な、そんな感覚だった。
「俺がここで死ぬ事は気にするな。
柱ならば後輩の盾となるのは当然だ。
柱ならば誰であっても同じ事をする。
若い芽は摘ませない。
…竈門少年。猪頭少年。黄色い少年。
もっともっと成長しろ。
そして今度は君たちが鬼殺隊を支える柱となるのだ。
俺は信じる。君たちを信じる」
未だ涙をぼろぼろと流す少年
茫然と立ち尽くす伊之助という少年
いつの間にかそこへと居た、少女を木箱の様なものへ慌てて押し入れようとしている タンポポの様な頭の色をした少年
ここに居る皆が、この煉獄杏寿郎の死を乗り越え、意思を受け継いで、生きていくのだろう。
何を聞くわけでもないのにそう感じずにはいられなかった。
あまりにも、眩しすぎる。目眩がする程に。
私は此処へ居てはいけないのだと
此処でこの者達の話を聞く権利すらないのだと、
そう思った。