• テキストサイズ

ふたりだけのせかい

第3章 其の参









「もうそんなに叫ぶんじゃない。
腹の傷が開く。君も軽傷じゃないんだ。
竈門少年が死んでしまったら俺の負けになってしまうぞ。
…こっちへおいで。
最後に少し話をしよう」




もうすぐ、命の灯火が消えようとしている。
それなのにどこか力強く そしてとても優しい、そんな声色だった。

座り込んだままの煉獄に促され、少年がゆっくりとそちらへ向かい その目の前へと腰を下ろす。
その瞳からは絶える事なく涙が流れていた。





「思い出した事があるんだ。昔の夢を見たときに」





そうこうしているうちに、先程まで山に隠れていた朝日は その姿を見せ、辺りを明るく照らしていた。
普通ならば、気持ちの良い気候の清々しい朝になっていただろう。
だが、今はその朝日でさえ霞んで見えた。




「俺の生家、煉獄家に行ってみるといい。
歴代の"炎柱"が残した手記がある筈だ。
父はそれをよく読んでいたが…
俺は読まなかったから内容がわからない。
君が言っていた"ヒノカミ神楽"について何か……記されているかもしれない」




煉獄が話すその内容は、私にはよくわからなかった。
が、今この瞬間に話すという事は何かとても大切な事なのだろうと思った。






「煉…煉獄さん、もういいですから。
呼吸で止血して下さい。傷を塞ぐ方法はないですか?」

「無い。俺はもうすぐに死ぬ。
喋れるうちに喋ってしまうから聞いてくれ。
弟の千寿郎には、自分の心のまま
正しいと思う道を進むよう伝えて欲しい。
父には、体を大切にして欲しいと。
それから…」




鬼狩りの中には、家族を鬼に惨殺され 己一人になった者もいるだろう。
…だけど、煉獄の様に家族がいるものだって、当然いるのだ。

そうか。弟に、父親がいるんだ…
その二人は、きっと今この瞬間だって、煉獄の無事を祈り、帰ってくるのを待っているだろう。

煉獄の死を聞けば、家族はどう思うのか。
何故鬼狩りになんてなったんだと思うのか。
悪鬼を倒す為に己の全てをかけ、弱き者の命を守り、誇りに思うのだろうか。




鬼を…猗窩座を。恨むのだろうか?











/ 73ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp