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ふたりだけのせかい

第3章 其の参









次から次へと溢れてくる涙が、目の淵から溢れ出す。
その涙は頬を叩い、ぽたりと地を濡らした。

涙の跡が少しずつ じんわりと乾いていくと、また其処へと新しい涙が重なる。
そんな様子をじっと見つめていた。






ーーードスッ!!!





放心状態になってしまっていると、再びなんとも言えない鋭い音が耳へと入り ゆっくりとそちらへと視線をあげる。





「…っ」

「逃げるな卑怯者!!逃げるなァ!!」





あの市松文様の少年が、投げたのだろうか。
漆黒色の刃をした刀が猗窩座の胸元へと串刺しになっていた。

そして、突然の事に振り返る猗窩座へ向かって、必死に叫ぶ少年。

あの少年だって、一歩間違えば命を落とすほどの重傷を負っているのに。
大きな声を出せば、傷も痛むだろうに。







「いつだって鬼殺隊はお前らに有利な夜の闇の中で戦ってるんだ!!生身の人間がだ!!
傷だって簡単には塞がらない!!
失った手足が戻る事もない!!

逃げるな、馬鹿野郎!馬鹿野郎!!
卑怯者!!」





子供のように、ただただ叫び続ける少年。
その姿から 私は目が離せなかった。
それは、伊之助という少年も、又煉獄も、同じ様子だった。





「お前なんかより、煉獄さんの方がずっと凄いんだ!強いんだ!!
煉獄さんは負けてない!!
誰も死なせなかった!!
戦い抜いた!!守り抜いた!!
お前の負けだ!!煉獄さんの勝ちだ!!」




息継ぎをする間もない程に、途切れる事なく紡がれるその言葉達。
ゼイゼイと、苦しそうな呼吸音が聞こえる。





「うあああああああああ!!!!
あああああ!!!
あああ!!!わあああああ!!!!!」




プツリと張り詰めていた糸が切れた様に、その少年の綺麗な瞳からぼろぼろと涙が溢れ出す。





己の弱さを恨んでいるのだろうか。
叫び出した彼の気持ちが手に取る様にわかる。

私は 弱いから。
彼の様に、実際に敵に向かって叫び出す事すらも出来なかった。
ただただ、呆然と立ち尽くすしかなかった。

だけど、私も叫び出したかった。
あの場で殺してやりたかった。


悔しいだろう、辛いだろう。
何もできずに目の前でただただ大切な人の命が零れ落ちてゆくのを見るのは。
ただただ 逃げ去る敵を見送るだけしか出来ないのは。








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