第3章 其の参
「オオオオオオアア!!アアア!!」
それでも今尚 炎の様に燃えたぎる強い意志のある瞳へと捉えられ その手が離れる事はない。
「オオオオオオオ!!!!」
「ああああああああ!!!!!」
「退けえええ!!!」
「あああああ!!!!」
二人の鼓膜を切り裂く様な叫び声が響き渡る。
ドッドッと心臓が激しく脈打ち続ける。
「…!」
ギシリと煉獄の刀が鈍い音を立てたかと思えば、ついにその刃は猗窩座の首の半分をも切り裂いていた。
思わず目を見開き、息を飲む様に 無意識に両手が口を塞ぐ。
上弦の参が…ここで、破れる…?
「伊之助動け!!煉獄さんの為に動け…!!」
市松文様の少年がそう叫ぶ声が耳に入った。
その言葉に、猪の被り物を見に纏った "伊之助"と呼ばれた少年もまた、圧倒されていた様だったが ハッと我へと返り二人の元へ駆け出し、その二刀流の刀を構える。
『ーーー獣の呼吸 壱ノ牙 穿ち抜き』
あともう一歩で、その刀が猗窩座へと届く。
あと、もう一歩で…
ーーードウッ!!!
ズンと何かが地面にめり込む様な、そんな音が聞こえると同時に、猗窩座が空を舞う。
つられるように見上げれば、そこにある猗窩座の姿は 右腕は肘辺りから、左腕は手首の辺りから千切れ その傷口からは血が吹き出し、首には鍔から上の刃の部分のみとなった刀が突き刺さったままの何とも痛ましい姿だった。
逃れる為に、自ら腕を千切ったのだろうか。
そして離れた場所へと降り立てば、もう既に千切れていた腕は 何事も無かったかの様に、メキメキと生えてしまっていた。
あれ程拘っていた戦いを放棄し、その身を守る為に逃げる。
命をかけて戦い抜いた人間など、もう猗窩座の眼中には無い。
猗窩座はただただ、日の光から逃げている。
その証拠に、日の昇る方とは真逆の影となる方へと勢い良く駆け出す。
(あぁ…あぁ…やっぱり…)
視界がゆらゆらと揺らめく。
段々と目の前が見えなくなってゆく。
母が殺されたあの日、もう涙は枯れた筈だった。
それなのに何故
涙が出るのか、自分でもわからない。