第3章 其の参
「死ぬ…!死んでしまうぞ、杏寿郎。
鬼になれ!!鬼になると言え!!
お前は選ばれし 強き者なのだ!!!」
その言葉を聞き、煉獄はハッとした様な顔を見せた後 暫くの間何かを考え込む様にぴくりとも動かなくなってしまった。
あぁ、死んでしまう。
私が"悪"としていた鬼狩りの柱が。
腹部を貫通され 生きていられる人間なんていない。
この世のどこにも。
又 私の目の前で 命が零れ落ちてゆく。
鬼になれば、死なずに済む。
まだ生きていられる。
…それでも、この男は鬼にはならないだろう。
どうして?
"生"に縋ることが そんなにいけない事なの?
大切な人に生きていてほしい、失いたくない、そう思っては駄目なの?
この男が"選ばれし 強き者"であるなら、"選ばれてはいない 弱き者"は、どうやって大切な人を守ればいいの?
鬼になれば人を殺すから?人を喰らうから?
それがどれほどいけない事かなんてわかっている。
それでも…
それでも生きていてほしいと願ってしまう 行き場のない気持ちは、一体何処へやればいいの?
鬼になんてせず、病気で死にゆく母を黙って看取っていれば 私はこんなに苦しい思いを 辛い思いをせずに済んだの?
ーーーギシッ…
暫くの間止まったままだった煉獄が、覚悟を決めるかの如く再び刀を力強く握り締める。
鈍い音が鳴るくらいに強いその力は、手の甲に青筋が浮かび上がる程だった。
そして間髪入れずに、猗窩座の首をめがけて その刃を力一杯振り翳した。
「かっ…!!」
その刃が食い込んだ部分から勢い良く血が吹き出す。
最後の力を振り絞る様に、煉獄の額には いくつもの青筋が浮かび上がっている。
相討ちになったとしても、猗窩座の首を斬り落とすつもりなのだ。
大切な人の命を守る為に。
「オオオオオオオオオ!!!!!!」
その雄叫びと共に力の込められた刀から、ミシッと鈍い音が聞こえる。
猗窩座の首へと食い込み 途中で止まってしまっていた刀は段々とその力の向く方へと進みはじめる。