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ふたりだけのせかい

第3章 其の参










どくりと一層大きく心臓が脈立つのがわかった。




何故ああなっても尚戦うのか。
何故あの心は折れないのか。



母を自ら望んで鬼へとさせ
鬼狩りの者へと復讐を望み
鬼の始祖である無惨の手を取り
鬼を"悪"と思わず、
鬼狩りを"悪"としている私が。


こんな事を言っては、思ってはいけないのかもしれない。
そんな資格なんてないだろう。


だけど。
あの男に死んで欲しくない。一度だけでいい、話がしてみたい。
そう、思わずにはいられなかった。




私とは真逆のところへと居る人。
正に太陽の様な人だと、そう思った。







…しかし、いつだって現実は残酷だ。







「素晴らしい闘気だ…
それ程の傷を負いながらその気迫、その精神力。
一部の隙もない構え。
…やはり鬼になれ、杏寿郎。
俺と永遠に戦い続けよう!!」





折れない煉獄の心に…ではないだろう。
ただたんに煉獄のその強さに 興奮するように大きな声で叫ぶ猗窩座は、しゃがみ込み片膝を立てる。


ざわりと心が嫌な音を立てる。







『ーーー炎の呼吸 奥義 玖ノ型・煉獄』

『ーーー術式展開 破壊殺・滅式』








今までのどの技とも比べ物にならないような、そんな威圧感。
灼熱の業火の如き威力で猛進し 抉り切る煉獄の刀。
そしてその凄まじい技と猗窩座の技が衝突し 耳を裂くような轟音が鳴り響く。







ーーードドォン!!!!!








喉はカラカラに乾き切っていて、張り付いてしまいそうだった。
瞬きをするのも忘れているが故に 瞳だって同じだった。


再びゴウ…と空まで届きそうな程に大きく砂埃が舞う。
しんと何の音も聞こえなくなった。

私も、いつの間にか体を起こしている市松文様の少年も、猪の被り物を身につけている者も、皆見つめる場所はただ一点のみ。

緊張感が張り詰めている。






「…!」






まだ薄らと砂埃がハラハラと舞い続けている。

そのモヤがかかる先には、猗窩座の右腕…肘の下あたりまでがすっぽりと煉獄杏寿郎の腹部へと貫通していた。


木の幹へと触れたままであった手が、その光景を目の当たりにして、だらりと力なくゆっくりと下がってゆく。











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