第1章 其の壱
鬼となった母の亡骸は、骨一つすらも残らなかった。
灰となり 星すらも見えない真っ暗な空へと吸い込まれる様にして消えていった。
私は母を失った悲しみで、その日の事はもうほとんど憶えていなかった。
母を殺した、憎き鬼狩りの顔すらも………
私はそれから間も無くして無惨の傍へと置かれる様になった。
私の母を殺した鬼狩りを見つけ出してくれるのだと言う。
そして、見つけ出した後の事は私の好きにしても良いと。
これは利用する他無いと思った。
無惨は私を鬼にする訳でもなく、私をただ傍に置き、ご馳走や豪華な着物や簪など、沢山の物を与えてきて、気が向けば私を抱いた。
だからといって 愛の言葉を囁かれる訳でもなかった。
鬼になる事も、ご馳走も、着物や簪も、この体も。
私にとっては全てどうでも良い事だった。
そしていつの日か、何千年という長い年月をかけて青い彼岸花を探しているのだと、太陽の光を克服出来る鬼を探しているのだと、自分は太陽の光を克服したいのだと、無惨は言っていた。
なんとも哀れな男だと思った。
一緒に生きていく者もいないのに、たった一人なのに、太陽の光を克服して、永遠の時を生きられたとして、そこに何の意味があるのか。何が幸せなのか。
そう思ったまま言うと、無惨は何も返してこなかった。
無惨が自分の事を、気に入っているのだろうと気が付くのに、そう時間はかからなかった。
其れが 玩具としてなのか 女としてなのか そこまではわからなかったし、心を開いている訳でもなく、可愛げのある事を言う訳でもなく、媚びを売る訳でもない、こんな私の何を気に入ったのかはさっぱりわからなかった。
そして、無惨自身は己の気持ちに気が付いていないのか、いつも私と接する時は表情には出さずとも、心の何処かで動揺している様だった。
私は、こんな男なんぞどうでもいい。
殺される事が怖くも無い。
この男が何千年も前から存在し、何千人という人々を殺してきたのだとしても、私には微塵も関係のない事。
あの憎き鬼狩りを殺して、さっさと私も死にたい。