第1章 其の壱
無惨から、鬼になれば人を喰らうという事は聞かされていなかった。
聞かされていたのは、鬼となれば永遠の時を生きる事ができるのだという事、しかし太陽の光を浴びる事はできないという事、ただそれだけ。
私も それ以上を追求することなく、すぐに首を縦に振った。
母はもう既に話す事もままならず、鬼となっても良いかと問う事もしなかった。
そしてその後、母は無惨の血を与えられ、その血に順応し鬼となった。
人間でなくなったとしても、例えそれが許される事でなかったとしても。
それでも、母が生きていてくれるのであればそれだけでいい。
そう、思った。
しかし、信じていなかった神や仏は 存在したのだろうか。
そんな事は許されないとでもいう様に、鬼となったその日に 鬼狩りの手によって殺されてしまったのだ。
その鬼狩りによると、鬼は人を喰うのだと。
だから自分達鬼狩りは鬼を斬るのだと。
そう言っていた。
しかし母はまだ人を傷付けてもいなければ、喰らってもいなかった。
その後、無惨に 人を喰らわずとも生き永らえている鬼もいるのだと聞かされた。
その鬼は 鬼狩りによって生かされているのだと。
もしかしたら 母もその鬼の様に人を喰らわずとも生きられたかもしれない。
…否、もし人を喰らってしまったとしても 私は母に生きていてほしかった。
其れが間違っていたとしても。
歪んだ感情なのだとしても。