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ふたりだけのせかい

第3章 其の参










距離を取り戦っていた二人であったが、その距離は煉獄杏寿郎によって一瞬にして縮まった。





「この素晴らしい反応速度」





技と技が、拳と刀が
ぶつかり合う激しい音が休む間も無く永遠と響き渡る。


確かに猗窩座は強い。
それは鬼であるから 上弦であるから、と納得がいく。

では、煉獄杏寿郎はどうか。
ただの生身の人間が、上弦の参である猗窩座に引けを取らず ほぼ互角に戦っている。






「この素晴らしい剣技も失われていくのだ、杏寿郎。悲しくはないのか!」

「誰もがそうだ、人間なら!当然の事だ」






どうしてこんなに真っ直ぐでいられるのか。
どうしてこんなに強いのか。
この人間は。


正しき事というのは皆頭のどこかではわかっているだろう。

それでも、そのまま真っ直ぐに正しい道をいくのはとても難しい事だ。
自分の欲や見栄、自分の自尊心を守るため。
人はその正しき事から背を向ける。

仕方がない…
そう、自分自身に言い聞かせて。





"強さというものは 
肉体に対してのみ使う言葉ではない。"





その通りだと思う。
…人間の心は弱く、脆い。
それが、"人間"というものだと思っていた。
私だってその一人だった。


それなのに。
私はここまで強く、真っ直ぐな人間を今までかつて見た事があっただろうか。






ゆらゆらと揺らめく心。
そんな視界の隅に、動く人影が見える。


それは 先程まで横たわっていた、緑と黒の市松文様の羽織を着ていた少年だった。

負傷しているからだろう、動きが鈍い。
それでも、目の前で戦う煉獄の助太刀に入ろうとしているのだろうか。
立ち上がろうとしている。





「動くな!!傷が開いたら致命傷になるぞ!!待機命令!!」





そんな少年に、この激闘の中気付いたのだろう。
突然の大きな声に、少年と同じく びくりと肩が震えた。



その少年の姿が、自分と重なって見える。
煉獄杏寿郎は、あの少年にとって 大切な人なのだろうか。

助けたい、なんとかしたい、死なせたくない。
そんな気持ちだけが頭の中をぐるぐると駆け巡っているのに、何も出来ない。動くこともままならない。

"あの日"の自分だと、そう思った。












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