第3章 其の参
再び ドンッという地鳴りがしたと思えば、一瞬にして猗窩座は横たわっている少年の元へと移動しており、拳を振りかざしていた。
『ーーー炎の呼吸 弐の型 昇り炎天』
しかし、その拳が振り落とされるよりも先に 太陽の様にキラキラとした金色、そしてその先は真朱色に染まっている髪をした男の刀が、猗窩座の拳を真っ二つへと切り裂く。
刀を下から上へと振るい、その刀は猛炎に包まれるかの様であった。
刀から炎なんて発せられる訳がない。そんな事は有り得ない、絶対に。
…だが、本当に見えるのだ。この目には。
あの男が"柱"だ。
聞かずとも見ていればすぐにわかる。
その全てが一秒にも満たない程の、目にも止まらぬ速さで。
瞬きをしていれば その一つ一つを見逃してしまう。
呼吸をする事さえ惜しい。
そんな緊迫した状況だった。
その目の前の光景に圧倒され、身体中の震えや冷や汗が止まらない。
一歩、また一歩と 引き寄せられる様にして 少しずつ足を進める。
ビチリと生々しい音を立てながら、指先から二の腕のあたりまで裂けていた左手の傷は一瞬にして塞がった。
その回復力は凄まじいものだった。
猗窩座は未だ手の甲へと付着している血液を、べろりと舐めあげる。
「なぜ手負いの者から狙うのか 理解できない」
「話の邪魔になるかと思った。俺と お前の」
「君と俺が何の話をする?初対面だが俺はすでに君のことが嫌いだ」
「そうか、俺も弱い人間が嫌いだ。弱者を見ると虫唾が走る」
柱の男と猗窩座が向き合い話をしている間にすぐそばまで近付く事ができた。
二人の放つ殺気に、びりびりと肌が痛む。
未だ震える手をそっと木の幹に添え、柱と上弦 絶対に分かち合う事のできない者同士がどの様な話をするのかと、じっと耳をすませる。
「俺と君とでは物ごとの価値基準が違うようだ」
「そうか。では素晴らしい提案をしよう」