第3章 其の参
『ギャアアアア!!!』
建物の屋根から屋根へと飛び移り、物凄いスピードで駆けていく猗窩座。
その揺れに暫く耐えていれば、少し離れた先の方から耳を塞ぎたくなる様な叫び声が聞こえてくる。
「なに…今の」
「下弦の壱が死んだ」
無意識に呟いたその言葉に、猗窩座が淡々と答える。
鬼は基本群れないと聞いた。
いくら同じ鬼で、十二鬼月だからといって、仲間意識というものはないのだろう。
本当に、斬られたんだ。
人間に…柱によって。下弦の壱が。
下弦さえ斬られてしまうのであれば、私の母を殺すのなんて容易い事だったのだろう。
その者が 柱であったなら尚更。
あれ程揺れていたのがぴたりと止んだかと思えば、ゆっくりと地面におろされた。
辺りを見渡せば、木々が茂っている。
「俺は柱を始末しに行く。お前は隠れて見ていろ、見つかれば面倒な事になる」
そう告げる猗窩座の視線の先を辿っていけば、離れたところで微かに人影が動いている。
あそこにいるのは、一人…いや、二人だろうか。
一人はかなり負傷しているのか倒れ込んでいて、もう一人はその人を覗き込んでいる。
じっと佇み、その人影へと目を凝らす。
あれが、鬼狩り…
何も言葉を発する事なくただ見つめていれば 猗窩座は再び地面を蹴り上げ、私の見つめている方向へと飛び込んでいってしまった。
これから、始まるのだ。
上弦の参と柱の戦いが。
どっどっど、と心臓の音が煩い。
それを抑える様に、ぎゅっと心臓の辺りの服を掴む。
必ずどちらかが死ぬ事になるだろう。
私はそれをここから見届けなければならない。
誰かの死を見届けるのは、母を亡くした時以来の事で。
あの日の記憶、母の断末魔、むせ返る様な血の鉄の様な匂い、ごとりと首の落ちる鈍い音、そんな事ばかりが頭の中をぐるぐると駆け巡っていた。
ーーードオン!!!!!!
猗窩座があちらへと降り立つ。
その証拠に、離れているこちらの地面までもが揺らめいている様な、そんな凄まじい地鳴りが響き渡った。