第3章 其の参
「今すぐ支度しろ。下弦の壱と柱が戦っている。…が、もう時期下弦の壱は破れる」
「え」
「無惨様に柱を始末する様命じられた。お前も連れて行くようにとの事だ」
その言葉を聞き、心臓がどくりと大きく脈打つ。
この声は間違いなく猗窩座だ。
下弦程の力を持っていても、柱には敵わないのか。ただの人間なのに…?
それ程までに強いのか、柱というのは。
「日が昇る前に全てを片付ける。早くしろ」
「…わかりました」
弾かれる様に勢いよく起き上がり、ばたばたと寝巻を脱ぎそこらへと投げ捨てる。
適当に手に取った着物へと袖を通し、帯を締める。
髪を結う時間さえ惜しく 適当に後ろで一つに結おうとするが、緊張からか 動揺からか 手が微かに震えていて、中々上手く結う事が出来ない。
今こんな調子じゃ、仇を討つ事なんて絶対に出来ない。
それに、急な事でもない。
この一週間もの間、色んな事を考えてきたのだから。気持ちの整理もとっくに出来ている。
しっかりしろ。
私が今何の為に生き、何の為に存在しているのかをよく考えろ。
"あの日"の事をよく思い出せ。
静かな部屋に、パシッと乾いた音が鳴り響く。
己の両手で叩いた両頬がじんじんと痛み、熱をもってきた様だった。
そうすると、自然と手の震えもおさまり、手早く髪を結えば、襖をゆっくりと開け放った。
「お待たせしました」
「此処からは遠く離れている。お前に合わせていれば間に合わなくなる。…乗れ」
乗れ、と言われたのは猗窩座のその背中。
さすがに申し訳ない。
…が、今は恥ずかしいや申し訳ないというやり取りをしている間も惜しい。
猗窩座がそう言うのであれば、きっとそれが最善策なのだ。
「…失礼、致します…」
「…」
おずおずと気まずそうに猗窩座の背に体を預ける。
すると間髪入れずに、ダンッと地鳴りの様な大きな鈍い音が響き渡り 思わずぎゅっと瞼を固く閉じてしまう。
そして次に瞼を開いた時には、もう既に身体は宙を舞っていた。