第1章 其の壱
私の母は病弱であった。
当時の医師に、もう後一月も持たないと言われた。
兄妹もいなく、父は私が産まれて間も無く 病弱な母を置いて出て行ったそうだ。
私は顔も覚えていなかった。
それでも 必死に働き 私を女手ひとつで育て、毎日たくさんの愛を与えてくれていた。
体はとても弱かったが、心は誰よりも、強い人だった。
私には母だけだった。
その母が、あと一月の命だという事実がどうしても受け入れられなかった。
もう、薬の効果も期待できず、なんの治療もせず このまま"死"を待つだけだと、そう言われた。
私は、毎日毎日 神社へと足を運んだ。
神など信じていなかったが、それくらいしか自分に出来る事がなかった。
そんな時だった。
あの男…鬼舞辻無惨と出会ったのは。
「どれだけ祈ろうとも、神も仏も存在しない。…可哀想に。私が救ってあげよう。」
容姿端麗な男だった。
妙な威圧感を纏っていた。
人間ではないのだろうと、何故だかすぐにわかった。
この男が誰であろうが、何であろうが
そんな事はどうだってよかった。
母の命が永らえるのであれば。