第2章 其の弐
何処からか ひゅるりと舞い込んできた風が頬を撫でると同時に、意図的にかはわからないが 開けっぱなしにされていた吹き出し窓へと掛けられていたカーテンがふわりと揺らめいている。
誘われるようにそちらへと視線を移せば、風の音以外なにも聞こえなかったのに、いつの間にか其処へと跪く人影が見えた。
驚きから、思わずびくりと肩が震える。
「っ…」
其処には、無惨の瞳の色と同じ紅梅色をした短髪。
伏せられているが 微かに見える白目の部分は青く ひび割れているような、そんな模様が浮かんでいて、その中心にある瞳は猫のように綺麗な黄色。
顔や身体中に藍色の…
確か 私の記憶が正しければ、江戸時代頃に、罪人へと入れていたとされる入れ墨に似ている気がする。
気のせい、だろうか。
そしてその姿は、一目見ればわかる 正しく"鬼"そのものだった。
その姿を目にした瞬間、ぞわりと肌が粟立つ。
無惨とはまた少し違った威圧感をビリビリと肌で感じる。
これが、百年以上上弦として存在し続け、人間を 鬼殺隊を 柱を あの世へ葬り続けた"上弦の参"…猗窩座…
どきどきと心臓が煩い。
冷や汗が背中を伝っていくのがわかる。
なんとも情けない事だが、言葉を発する事も、その場から動く事さえできずに ただただ見つめるしかできなかった。
「無惨様、御呼びでしょうか」
「…例の女だ」
その無惨の言葉に、ようやく伏せていた目を上げて 私をその視界へと入れる。
なんの感情も読み取れない様な、その瞳には "上弦の参"と刻まれていた。
「やるべき事はわかっているな?猗窩座」
つい先程まで、優しく私に触れていたのが嘘かの様に、無惨の地を這う様に低いその声。
嫌と言うほどわかっている筈だったが、こうして他の鬼といるところを初めて目にすると、改めてこの男は異次元の強さを持つ上弦の鬼と比べても尚、別格の鬼なのだと思い知らされる。