第2章 其の弐
存在を確かめるかの様に、何度も何度も角度を変えて重ねられる冷たい唇。
何を言われる訳でもないが 私が自分以外の鬼と関わる事を、鬼というものを深く知る事を、やはり未だよくは思っていないのだろう。
私のただの勘違いかも知れないが、先程から何処か余裕がない様な気がする。
「っ、待って…」
「…」
一向に離れる気配はなく、寧ろ段々深くなっていく一方で、気付いた時にはすぐそばの壁際まで追いやられてしまっていた。
今から鬼に会うというのに、このままではまずい。無惨のペースに飲まれてしまう。
いくら相手が鬼だからといって、初対面でこんなところを見られては面目が立たない。
そう思い、無惨の胸板へと手を伸ばしとん、と軽く押すと、想像していたよりもすんなりと離れた。
「これから来る鬼は、"上弦の参"だ」
「え…?」
「女は喰わない」
安堵の溜息を吐く暇もなく、離れたと思っていた無惨が再び ずいと私の耳元へと顔を寄せ、内緒話をするかのように小さな声で囁く。
僅かに酸欠の様な状態で、少し頭がぼんやりとしている。
「どうして、女は喰わないのですか…?」
「下らん理由だ。わざわざ話す価値もない」
鬼は皆、人間であれば 性別や年齢は関係なく喰らうのかと思っていた。
私が踏み入っていい事じゃないとは思うけれど、何故女は喰わないのか物凄く気になる。
それに…
「上弦の参って…物凄く、強い鬼じゃ…」
「ここ百年余り、上弦の顔ぶれは変わっていない。…だが、鬼が人間に勝つのは当然の事だろう」
「…」
その通りだ。
本来であれば、鬼が人間に勝つのは当然の事なんだ。
身体能力も比にならない程高い。
手足を失っても、胴体が二つに分かれようとも、また生えてくる。
そんな鬼を倒す、鬼狩り…鬼殺隊。
「上弦の参へは、青い彼岸花を見つけ出す事、産屋敷一族を葬る事、そしてお前の手助けをする様命じている。…猗窩座と共に仇である鬼狩りを探せ」
「猗窩、座…」