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ふたりだけのせかい

第2章 其の弐










「人払いはしてある。…入れ」





どの道を通って此処まで歩いてきたのか、よく覚えていない。
何を考える訳でもなく、ただどくどくといつまでも煩く 身体中に響いている心臓の音を聞いていた様に思う。



私の先を歩いていた無惨の足がぴたりと止まり、それと同時に中へと入る様促される。
その声に我へ返り ふと見上げれば、そこには古びてはいるが とても大きく立派な屋敷が聳え立っていた。

無惨が今、人間に紛れ込み隠れ住んでいる所なのだろう。
話には聞いていたが、実際にその場所を見る事も、足を踏み入れる事も、一度もなかった。




夜も深く、この辺りは灯りも少ないが故に闇に包まれている。
何処か遠くの方から"ジーー"と、クビキリギスの鳴き声が微かに聞こえてくる。



まるで其処は、地獄への入口にも思えてきて。
思わずごくりと生唾を飲み込んだ。






「…はい」






意を決して、静かに門を開ける。
そう重くはない筈なのに、とても重く感じる。
錆び付いた鉄の掛金がギィと鳴った。




そんな様子を横目でただ見ていた無惨は、門が開くのを確認すれば、突然私の手を取り何か言葉を発する訳でもなく、中へと足を進めた。

外装よりも中は更に綺麗で、想像していたよりもうんと広い様だった。
どこまでも繋がっていそうな程長い廊下をするすると通り抜けていく。
いつもに増して口数が少なくて、沈黙が続いていて、なんだか居心地が悪い。



そんな無惨がようやく襖へと手を伸ばした部屋は、一番奥の日の光が当たらない場所だった。





「ここに、鬼が…?」

「いいや、まだだ。時期に来る」




足を踏み入れたその部屋には、ずらりと数え切れない程の本が棚に綺麗に並べられている。
そして机の上には、試験管やビーカー、フラスコ、シャーレ等 実験器具が所狭しと置かれている。
その中には得体の知れない液体が入っていて、何やら不気味にも見えた。










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