第2章 其の弐
「怖気付いたのなら、辞めてもよいのだぞ」
そんな私に気付いてか、将又本当は自分が連れて行きたくないだけなのか。
どこか宥める様にも聞こえるその声色。
「…いいえ。連れて行って下さい。とうに覚悟は出来ています」
「…良いだろう」
そう。覚悟はできている。
そもそも、何度も何度も断られていたのに、私が諦めずに頼み込んだのだ。
今更それを翻すつもりなどない。
無惨とほんの少しの会話を交わしただけだが、この男といれば、私は私の目的を見失わずに済む。
出来る事ならば、もう全てを忘れてしまいたいという、心の隅の方に小さくなっている 甘くて弱い自分を打ち消す事ができる。
忘れる事が出来れば、この苦しさから逃れる事はできるのだろうか?母が今の私を見て、どう思うのだろうか?
そう迷わない日はない。
…でも、あの日の事を忘れる事なんて、どんな事があろうとも絶対に出来ない。
例え母を悲しませてしまっても、間違っていたとしても、これから先自分の行いを後悔する日がやってきたとしても。
私は何度同じ人生を送ろうとも、同じ選択をするだろう。
そんな事を考えながら、"着いてこい"と言い静かに歩き出す無惨の後を追う。
母と無惨以外では初めて会う事になる、まだ見ぬ"鬼"へと、思いを馳せて…